大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)206号 判決

一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

二 本願発明の要旨及び引用例の記載内容が審決認定のとおりであること、本願発明と引用例のものとの対比において、両者が、「充電用電極手段を有する電圧充電装置で静電記録をするのに用いられる静電記録媒体において、静電電荷を受けて保持する外表面を有する誘電層と該電極との間隙が所要のものになるようなスペーサ手段を介在させる静電記録体である点」で共通し、審決認定の相違点(1)及び相違点(2)で相違していることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一号証の一ないし六(本願発明の願書添附の明細書及び図面、手続補正書)、によれば、本願発明の主たる目的には、「パルス電圧充電による静電記録方式において、充電用電極と記録媒体の表面との間の間隙が記録媒体自体によつて保たれるという新しい解決の手段を提供すること」が挙られていることが認められる。

(審決取消事由1について)

前掲甲第一号証の一ないし六によれば、本願発明で用いられるスペーサ手段は、静電記録を行なうに際し、充電用電極手段と、これに対し相対的に変位し(もつとも、その際の速度は特に限定されていない。)、次々と入れ替る静電記録媒体との間に、所定の微小間隙(本願発明の特許請求の範囲の記載からみて、千分の一ミリないし百分の一ミリの程度のもの)を高精度で維持するために、該静電記録媒体の誘電層に、その頂部が所定寸法だけ突出するようにして埋設したものであり、後述のとおり、記録の際の操作の手数を省いて記録速度を高めるなどの顕著な作用効果を奏するものであることが認められ、被告が指摘挙示するような日常一般の機器類等において施用されているスペーサないしスペーサ手段とは、それが前提とする技術思想的基調ないし課題を明らかに異にし、技術分野を異にするものということができる。

また、被告が埋設による固着の慣用例として挙げる成立について争いのない乙第一号証、第二号証及びその他の事例は、静電記録媒体とは無縁のものであり、技術的分野を異にするものである。

したがつて、審決が、日常行なわれているスペーサ手段に徴し、引用例記載の振撒いて使用される粉末粒子であるスペーサ手段を、誘電層の内部に少なくとも一部が埋設され、かつ、誘電層表面から一定長さ突出するように固着することは、当業者が容易に推考しうる程度のことであるとしたのは、当を得ず誤りというべきである。

(審決取消事由2について)

引用例のものでは、スペーサ手段を誘電層の表面がほとんど見えなくなる程度に振撒くのに対し、本願発明では、スペーサ手段は誘電層表面のうち、少なくとも八〇%に相当する電荷保持面を残すように相互に間隔をあけて設けるものであるところ、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例のものにおいては、スペーサ手段を誘電層の表面がほとんど見えなくなる程度に振撒いたとしても、単に振撒いたにすぎないから、スペーサ手段の各粒子と誘電層表面とがそれぞれ点で接触するとすれば、スペーサ手段との各接触点を除く誘電層表面の大部分は、電荷保持面として機能することが可能であると認められる。したがつて、このように引用例のものにおける誘電層表面の大部分を電荷保持面とすれば、ここに静電潜像を形成しうるようにした点に関する限り、引用例のものも本願発明もさほどの差はないといえなくはない。

しかしながら、前掲甲第一号証の一ないし六によれば、本願発明は、スペーサ手段を静電記録媒体の誘電層に埋設して固着することを要件とするものであり、引用例のものとは異なつて、以後これを除去することはできないものであるから、現像の際のトナーの付着を確実にするためにも、本願発明における誘電層表面の電荷保持面は、実質的に見えている状態にしておく必要があり、そして、スペーサ手段が誘電層の外表面のうち、少なくとも八〇%に相当する電荷保持面を残すように定常的に相互に間隔をあけて設けることにより、スペーサ手段の存在による電荷保持面の面積の減少を抑制して鮮明な記録を得ることができるようにしたものであることが認められる。そうであれば、誘電層表面にスペーサ手段を分布させた状態でみると、本願発明と引用例のものとは、スペーサ手段の分布基準ないし態様に大きな差があるというべきであり、この差と鮮明な記録を得ることができるという本願発明の前記の作用効果を併せ考えると、審決が、スペーサ手段を誘電層表面にどの程度設けるかは、当業者が簡単な試験により適宜決定しうることであるから、誘電層表面のうち、少なくとも八〇%に相当する電荷保持面を残すように相互に間隔をあけて埋設することは、当業者が容易にしうる旨判断したのは、結局において、誤りというべきである。

(審決取消事由3について)

引用例のものは、スペーサ手段である粉末材料を誘電層表面に振撒くものであるから、記録を行なう毎にそのための操作に手数がかかり、また、個々の記録装置にもそのための特別の装置が必要となるものと認められる。これに対し、本願発明の静電記録媒体においては、その誘電層に予めスペーサ手段が埋設するようにして設けられており、引用例のもののように特別の操作をその都度行われなくても、記録媒体自体によつて充電用電極手段との間に所定の微小間隙を保つことができるので、それだけ操作の手数を省いて記録速度を高めることができ、また、記録装置を簡単にすることもできると認められ、この点は本願発明の奏する顕著な効果ということができる。

被告は、本願発明でもスペーサ手段を予め誘電層に固着するのに、そのための装置と時間を必要とするから、本願発明と引用例のものとは、スペーサ手段の設置の態様を、予めするか、使用時にするかの相違にすぎず、この点をもつて本願発明の格別顕著な効果ということはできないと主張する。なるほど、本願発明の静電記録媒体は、その製造段階において、スペーサ手段を設ける工程が必要であり、そのための装置と時間が必要ではあるが、記録媒体を製造する際に要する装置及び時間と、記録を行う際に要する装置及び時間とは、同列に扱うことのできないものであり、前述のように、本願発明の静電記録媒体がその使用の際に顕著な効果を奏するものである以上、この点を本願発明の顕著な効果とみるのが相当であり、被告の前記主張は採用することができず、この点の審決の判断は誤りというべきである。

そして、以上に判断した諸点は、審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

充電用電極手段を有する電圧充電装置で静電記録をするのに用いられる静電記録媒体において、静電電荷を受け て保持する外表面を有する誘電層と、前記誘電層の内部に少なくとも一部が埋設され前記誘電層の前記外表面から〇・〇〇一二七mmないし〇・〇一〇一六mm(〇・〇五milないし〇・四mil)突出したスペーサ手段とを有し、前記スペーサ手段は前記誘電層の前記外表面のうち少なくとも八〇%に相当する電荷保持面を残すように相互に間隔をあけて設けられていることを特徴とする静電記録媒体。

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